2014年(平成26年)7月・初夏36号

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むかーし昔のこったけどな。

伯耆(ほうき)の国の東の方に東郷池ちゅう大けな池があってなぁ。そんなのにき(傍)にせっみゃ(狭い)ふぅきゃ(深い)谷があってんや。谷の中ほどに羽衣石と書いて「うえし」って読むこーまい(小さい)村があったわいや。その谷のつんまり(行き止まり)に羽衣石山ちゅうさーがい(急な)山があったわいや。ある日のこと、村の若きゃーもんが、いつものやーに焚きもん採りに、この山に入ってなぁ、山のてっぺん(頂上)の辺りまで来たら、なんだかええ匂いがしてくっだってぃゃ。ありゃ、何だかええ匂いがしてくっだか、何の匂いだらーかいなってなぁ。あっちこっちキョロキョロして見たとこーが、まぁ高きゃー50尺もあらーかっちゅう大けな岩の上にな、何だかヒラヒラするもんがあっだってぃゃ。にき(近く)に行って見るちゅうと、ええ匂いはそっからしとってぃゃ。それはな、薄い絹の布でなぁ、美しい柄の着るもんだったぃゃ。また、横しのいけつ(泉)見るっちゅうと、まあ、若きゃ、ええにょーば(女)の子が、水に浸かって体洗っとっただってぃゃ。その裸はのう白うに透けとって、な—がい(長い)かんちい(髪)は艶々しとったさーなわい。

若きゃー男は、ちいとん間その裸に見とれて、ほげーっとしとっただけど、ふんと我に戻って、こりゃもしかしたら天女ちゅうもんだかも知れんぞ。何でもおせ(年長者)の話によるっちゅうと、天から天女ちゅうもんがこの山に降りてきて、こんな池の水に入って体洗って、又、天にいぬる(帰る)っちゅうこっだが、これが天女なら、そこん脱いであるええ着る物は天女の羽衣ちゅうことんなるわい。そがん合点するちゅうと、その羽衣が欲しいて欲しいてかなわんようになっちゃって、仕舞いにゃさーがい(急な)岩の上に這い上がって、その羽衣をひょーいとひったくって、ももぐって懐ん中におげこんで、まあ、さーぎゃ(急な)山を駆けって降りただわいや。途中で石ころにけっぱなづいて、まくれたりしたけども、やっとこさぁで我が家に戻って、あまざ(天井裏)に這い上がって櫃(ひつ)ん中に隠したちゅうだがな、そん羽衣を。

さて、水ん中から上がった天女は、そこん脱いどったとこん来てみたら、羽衣がにゃー(無い)だわいや。そがしとる間に、辺りは暗んなりかけるし、腹はふだるうなるし、さぶ(寒い)はあるし、だいいち裸んばらだけなぁ、品が悪りぃがな。仕方がにゃーだけ、どこぞ泊まらしてもらう所はにゃーだらーかいってなぁ。とぼんとぼん山ぁ降りただわいや。そしたらさぁーき(先)の方に、こーみゃ(小さい)灯が見えてきただけぇ、そこに行ってなあ、頼んでひと夜さぁ泊まらしてもらっただがなあ。だけど、天女も行くとこがにゃーだけ、そん家にずっとおっちゃただってぃゃ。そん家はなぁ、若きゃ男がたった一人で住んどっただけぇ、そこに若きゃにょーばの子が来ただけぇ、そっで仲が良んなって、みおと(夫婦)んなってなあ、楽しゅう暮らしとって子どもが2人出来ただってぃゃ。

そがに(そんなに)ええ(良い)暮らししとっただけど、天女はぁ、天のことが思われてぃゃ、天に、いにたーて(帰りたくて)いにたーて叶わなんだだってぃゃ。そがんしとるうちに、羽衣を盗んだのは、うちの亭主だってことが分かったで、子どもらに羽衣の着物の隠してあるところを聞いたら、いきさつを知らん子どもらっちゃ、知らんだけ、きゃー言っちゃっただがなぃゃ。天女は亭主の留守の間になあ、その羽衣を引っ張り出して、きゅうせって(急いで)着ただわぃゃ。

そん時に、ゆぅーるい風が吹いてきてなあ、天女の体がふわーっと浮いちゃってぃゃ、あっちにゆーらり、こっちにゆーらり、あっちにゆーらり、こっちにゆーらりしてなあ、ちいーとはてたーきゃ(とても高い)天にあがっちってぃゃ。こーまんなって、仕舞いにゃ見えんようになっちゃっただってぃゃ。子どもらっちゃおぶれ(驚い)ちゃって「あれーおかかさーん、戻っていなー、おかかさーん、戻っていなーってなぁ、にゃーてにゃーて(泣いて泣いて)後をぼうて(追って)行ったけど、まあ、どがんもこがんも、しょうがにゃーだわぃゃ。そのうち、子どもらち(たち)が思い付いたのは、前から、おかかが音楽に好いとって、子どもらちも習っとっただけぇ、音楽を鳴らすっちゅうと、おかかに聞こえて、戻ってくると思ってなあ、倉吉の神坂(かんざい)ちゅうとこの山に行ってなあ、山のてっぺんでおかかに聞こえるように、太鼓と笛を一心に鳴らしただってぃゃ。雨の日も風の日も雪の日も、毎日鳴らしただってぃゃ。村の衆はなぁ、それ聞いてぃゃ、やれ、かわいさぁになあ、えげつないにゃあって言ってなあ。みんながにゃーた(泣いた)だってぃゃ。そのうち太鼓の音がとーとん(小さく)なって、笛の音も細ーぅになってなあ、仕舞いにゃ、誰も聞いたもんが居らんようになっただってぃゃ。

そん山を誰が言い出しただか、太鼓を打つの打っちゅう字と笛を吹くの吹くっちゅう字ぃ使ってなあ、打吹山(うつぶきやま)っちゅう山の名になっただってぃゃ。

今でもなぁ、倉吉の町の後ろに打吹山ちゅう、格好のええ山があってなあ、春んなるちゅうと山んじゅうは桜が咲いてぃゃ。みんなが夜桜見に行くだわぃゃ。おばさん、こんたも行きなんせんか、ええ、おどんもてぇーてって(連れて行って)なって言ってなあ、みんながてーらって(連れだって)行くちゅうわいや。行ってみるちゅうとな、こうばいの早ゃーぬん(すばやく行動する者)が行って、筵(むしろ)やゴザ敷いて陣取っちゃって、居り場がにゃーだわいや。仕方がにゃーだけ、誰も居らん暗(く)ぅらい草深い中ん入ってなぁ、じーっとすくんどるっちゅうと、山の上から、サヤサヤサヤサヤサヤ サヤサヤサヤサヤサヤーってなぁ、風が吹いてくっだわいや。そんなの合間になあ、こーまい音で、テンテコテンテコテンテコテン テンテコテンテコピーヒャララ、ピーヒャラピーヒャラ テンテコテンってなあ、音が聞こえてくっだってぃゃ。その太鼓と笛の合間になあ、おかかさーん、戻っていなー、おかかさーん、戻っていなーって、今でも聞こえてくっだっていや。

羽衣石山頂上近くの天女が水浴びをした時に
羽衣を掛けたと伝えられる羽衣石(はごろもいわ)

備考:全国各地に伝わる羽衣伝説のうち、日本三大羽衣伝説としては、静岡県(駿河国)と滋賀県(近江国)、京都府(丹後国)が通説になっているが、これに伯耆国の羽衣伝説を加えて、日本四大羽衣伝説とするのが地元の考えである。

語り部の土井吉人さん(鳥取県文化財保護指導員を務める)

次号(37号)は岐阜県で取材し、2014年9月末に掲載予定です。

お仕舞い。

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