2014年(平成26年)9月・秋 37号

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鈴村幸子さんの「栗おこわ」

ガス台の上では、すでに蒸し器が蒸気を噴いている。

昨夜は、夜なべで夫の直さんと一緒に、栗の皮剥きをしてくれたそうだ。その栗はもちろん、直さんが栗畑から拾ってきたばかりの早生(わせ)栗だ。もち米は坂折集落の米で、昨日の朝からふやかしておいた。小豆は「うちで穫れたやつ。そこら辺の畑で作っとる」と、幸子さん。

「子どもは3人あってね。家に1人と他所に2人。おこわが好きなもんで、割合食べるよ。栗おこわと山菜赤飯って言ってね、山菜を入れて、ちょっと味ご飯のような感じのも喜んで食べるね。栗おこわはね、稲刈りの時分に蒸すね。普通の赤飯は、お祝いにやるんだけど、秋は栗があるもんで、お祝いやなくても蒸すよ。今日までに、早生だけは大方済んだ。これから晩生(おくて)が、又、落ちるけど」

「もち米と栗と小豆は、蒸す前のサラサラの時に混ぜといた方が良いね。お米は1升、小豆は1合で栗は小豆の倍ぐらいで良いやないかね。栗と小豆は、先に茹でとくんやね、別々に。小豆は、指で押さえた時に潰れるくらいやね」。

蒸し始めて25分ぐらい経ったところで、幸子さんが「ちょっと、これ差しとくわ」と、もち米をくるんだ蒸し布を開いて、蒸気が噴いているもち米の上から差し水をした。「これはね、お酒1合と水1合5勺、砂糖大さじ5杯に塩が一つまみが入ってる。砂糖よけ入っとるから、ちょっと甘いかも知れん。私もあんまり上手やないで、分量を習ってきて。ここらで色々行事があるら、権現様の春と秋のお祭りとか。そういう時は、上手な人、柘植さきさん言う人やけど、その人が分量を見るね。昔からあることは、その人が先生やね」。差し水をした途端に、お酒の匂いが漂ってきた。「そやろ、お酒たくさん使った方が良い気がするね、お米に艶が出て」。

「なんでか、ご飯が強(こわ)い感じ。柘植さんのは柔こうに煮えるが。火が強い方が良いね。強いと、蒸気がさぁーっと上がるもんで。そんなに甘いということでもないね。砂糖は、もうちょっと使っても良いかも知れん。酒や砂糖が芯まで染みとらんと、冷めてくると硬うなるでね」

確かに、少し硬めの栗おこわになったようだ。それでも、もっちりとした食感で、ほんのり甘味がある。出来たてをいただく私の傍らで、幸子さんが濃いめのお茶を淹れてくれた。「苦いら、私ゃお茶を淹れることは下手やで」。ひと仕事を終えた幸子さんに、安堵の表情が見えた。

 

①蒸気が上がり始めた蒸し器の中の栗おこわ

②蒸している途中で酒などが入った差し水をする

③差し水をしたら、良くかき混ぜる

④蒸し始めて40分ほど経ち、米の状態をみる

⑤蒸し上がった栗おこわは寿司桶で水分を飛ばす

⑥手鍋で塩を乾煎りしてごま塩を作る

直さんの栗畑に落ちていた栗

「もう3年か4年前やけど、ちょっと油断して、蒸し器を火に掛けたまま人と話しとるうちに、下の水がなくなっちゃって、はあ、もち米が焦げよった。ちったあ良いとこだけ取って食べたけど、よいよ焦げ臭いであかんわ。捨てるというのは叱られるで、こそっと……」

幸子さんは、5分ほどして、2回目の差し水を打った。

「ここらは、秋に割と色々あって、もうマツタケなんてないで、雑キノコやね。ここらで言うシバモチちゅうんやけど、ちょっと黄色いような傘で細い軸やけど。それが生える時になると、輪になって生えとるわ。そんな風に生えとるとこは少ないけどね。息子は好きやもんで、行くちゅうとなると、どんだけなりと採ってくるわ。昔、お祖父さんがよう連れて行きよらしたもんで、仕込んでもらったんやね。ハチの子知ってる。ここらはヘボって言うけど。6月の始め頃になると、あれを獲り行ったりね。自分で飼って育てた方が大きい巣を作るもんで、小さい巣を獲って来て箱に入れとくと、メバチがおりさえすりゃだんだん増えていくもんでね。そんで、2つか3つか知らんが囲っておらせるわ。ハチが通いよるのを見よると、面白いんじゃと。そいで、餌を買ってきてやったりよ。餌はね、ニワトリのササミやとかね、イカも食べるらしいよ。もうちょっとすると、イノシシの解禁になるら。それにも行かせるし、もう次々と順番にいろいろあるわ」

坂折集落の秋の暮らしぶりを聞いているうちに、栗おこわが蒸し上がる。家庭用ガス台の強火で、40分間ほど蒸した。

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