2014年(平成26年)11月・晩秋 38号

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岡本ナナヱさんの「煮染め」

「今、あんた、2人んじょう(だけ)やから。人数多い時はね、茄子ができりゃ茄子する。色々、あんた、カボチャん時期にゃカボチャやけど。3月までは大根があるけんね。ケンちゃん汁したり、ニワトリ汁したりね、煮染めたりするけど。私はあぐる(贈る)とが多いと。どこもここもあぐるとが好いちょる。タロイモ(里芋)は家ででけたんやけんね。ゲートボールに行く時、肉入れてね、イモんじょう煮るんよ。そんで持って行って食べさすっと、みんな喜んで食ぶるわ」

ナナヱさんは、鍋に2センチほどの水を入れて、ガスコンロの強火に掛けた。続いてすぐに、顆粒状の出汁の素を大袋からザザーッと入れる。ともかく動作が速い。「硬いもんから先ね」と言うより先に、大根、コンブ、コンニャクが鍋に投げ込まれた。「生シイタケをね。これ、自分ん家(げ)んとが出来ちょったけ」。そう言いながら、ニンジンと生シイタケ、タロイモ(里芋)を豪快にザックザックと切ったそばから、どんどん鍋に放り込んでいく。

「私んとこは、ホウレン草んじょう(ばっかり)。夏もずっとね、ホウレン草ばっかし。ホウレン草で生活、もう30年ばっかししてきた。みんな、トマト作るけどね。私たちゃ歳を取っちょるけん、ホウレン草ばっかし。人夫を5、6人雇うてね、まだ、あんた、前は洗濯機のうしてね。私、タライで洗うたりね。炊事んしかたでんね、一人役(一人前)の、仕事はするんよ」

話をしながらでも、ナナヱさんの手はすばやく動き続けている。カマボコを半分に切って、さらに対角線に切って四切りに、野菜の入ったてんぷら(さつま揚げ)は半分に。切ったらすぐに、鍋に入れる。

「ニンニク醤油ちゅうのを、私ゃ、一年間分作っとるわけ。何にでん、こんくらい(盃に一杯)ずつ、ちょっと入れるわけ。ニンニクをミキサーで潰してね、4キロぐらい入るっとよ。

鍋は、先ほどからグツグツと大きな音を立てて煮立ち始めている。

「ちょっと酒を入れよかと思うて、酒をちょっと入れると美味しいんよ。ちょっとね(湯飲みに半分)」。酒に続いて、醤油をドボドボと鍋に注いだ。「私ゃ、量って入れんけんね」。噴きあがっている煮汁をちょっと小皿に取って、味を見る。「うん、美味しい。これで、煮染めればもういい」と、ナナヱさんは満足そうだ。

煮染める間、台所のイスに座って小休止だ。

「今、肉料理とか魚料理が多いでしょ。ほじゃけんね、煮染めは、田舎の味じゃけんね」

出来上がる煮染めを撮影するために、座敷で準備をしていると、ナナヱさんが私を呼びに来た。

「これ見て、こげして、どこでん、あんま機を部屋じゅう置いちゃるやろ。これは18万(円)もしたけん。仕事をしてから、あんま機に掛かるとよね。毎日は、お医者に行きださんけんね。ほりゃ効くよ。手から足からするとよ。あんま機のじょうあると」

「ババさんが死んで、13年じゃけん。死んだ年に家を建てたんじゃけん。あんた、うちのが70歳になって、家建てたんよ。ぜんぶ自分で設計してね。年取ってから風呂場と便所が近こなけりゃいかんちゅうてね。今、82(歳)やけん、大変やった。入院したこたないよ、どっちも。仕事がない時ゃね、夜が明くるのを待っとって、1時間ばい練習してくる。うちんとは、ゲートボールを好いちょるけんね。上手よ」

先ほどから、鍋は煮立って、いよいよ大きな音を立てている。ナナヱさんの話は佳境に入って、鍋のことを忘れているのではないかと、心配になってきた。火に掛けて35分ほど経った時、「ああ、そうだった」という風に立ち上がって鍋を見に行ったナナヱさん。「こりゃ、もう良い。もう煮えたよ。焦がれよる」と、落ち着いたものだ。再度、味を確かめたナナヱさん。「ちょっと辛かったなあと思うけど、もう仕方がねえわ」。

タロイモ(里芋)が、ほっこりと柔らかい。コンブ、シイタケ、大根、野菜の天ぷら、カマボコ、こんにゃく、どれをいただいても、ふんわりとした食感で、味がしっかり染み込んでいる。さすがに「煮染め」というだけのことはある。そこにちょうど健さんが帰って来た。「農作業する人にとっちゃ、ちょっと辛めの方が美味しいわ。美味しいよ。真剣美味しいよ」。

智大さんから、健さんのことを「ホウレン草の先生」と紹介して貰ったことを伝えると、ナナヱさんは心底嬉しそうだ。

「智大くんは、いい子じゃけんね。私んとこん孫んなっちょる。おじさんの手を皆、あんたが貰えよ。おじさんの手を全部習うてから、全部せなよち、私が言うてかいね。付いて廻らな、つまらんと。何もしきらんでいいき、始めのうちは、付いて廻ってくれさえすれば、いつかは覚えるけんね」

様々な材料を一つ鍋に入れてまとめ上げる煮染めの味は、地域が育む若者への愛情を現しているのかも知れないと思った。

 

①出汁の素を入れたら、硬い材料から

②ザックザックと大胆に材料を切る

③次々と材料を鍋に入れて、強火で

煮えるのを待って小休止するナナヱさん

④野菜の天ぷらやカマボコは最後に

⑤30分ほどグツグツと強火で煮続ける

 これまでに発行された季刊新聞「リトルへブン」のWeb版を読むことができます。

 

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