2014年(平成26年)11月・晩秋 38号

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自分が一番大切にしている物を教えてほしいと、聞いた。由希さんが最初に「家族」と言うと、他の4人が一斉に「みんな家族ですよね、それは」と、ブーイング。じゃあ、家族の次に大切にしている物は、何かな。

敬汰くんは、「3歳ぐらいの時から持っちょるライオンのぬいぐるみ」だと言う。それは、すごいな。もう7年も8年も大切に思う気持ちが変わらないのは、ライオンのぬいぐるみという物ではなく、その背景に、敬汰くんが主人公の物語があるということなのだろう。本当は、その物語を聞かせて欲しかったが、次に綾哉くんが手を挙げた。

「焼き鳥屋のおっちゃんから貰った巨人軍の帽子です」。「焼き鳥屋のおっちゃんから貰った」というのは、誰かが被っていた帽子なのか、新しい帽子だったのか。どうして巨人軍だったのか。帽子の話だけでも、ワクワクするような物語があるようだ。焼き鳥屋のおっちゃんと綾哉くんとの繋がりを知りたいと思った。

匠くんが、「野球道具を大切にしております」と、少しかしこまって答えた。淮園若はね少年野球団のキャッチャーとピッチャーをしているのだと言う。特に大切にしているのは、グローブと黒バットだ。匠くんが話し始めると、敬汰くんも綾哉くんも、「僕たちも野球チームです」と言う。友酉さんまでも、「女子ですけど入ってます」。すると、一人の残された女子の由希さんが「僕だけ、入ってないんですねえ」と、おどけながらひがんで見せた。すると「由希さんは、空手してますから」と、みんながすぐにフォローした。

淮園若はね少年野球団について詳しく聞いていくと、玖珠町の塚脇小学校の生徒と合同チームで、週5日ほどは放課後に練習が行われている。淮園小学校の全校生徒33人中、11人が野球部に入っている。6年生になると現役選手から退くため、5年生がチームの中心戦力になっているのだ。

友酉さんが、何か言いたそうだ。「女子野球って、女子だけの野球があるんですよ。九州大会があって、それで3位だったんです。それで、リボンが付いた3位の銅メダルが大切な物です。それと、香々地(かかぢ)に行った時の黒曜石もそうです」。

友酉さんは、淮園若はね少年野球団ではショートを守っている。練習試合に、日田市や由布市にも出かけていくというが、少年野球団のみんなは、自分たちで遊ぶ時間はあるのだろうか。一斉に答えが返ってきた。「学校以外で遊んでないです。家でひとりでゲームしたりとか、テレビ見たりとかはあるけど」。

友酉さんは、野球の他にピアノも習っているという。自由な時間がないはずだ。匠くんが、「僕は、野球と杖をやってます」と言うと、綾哉くんと敬汰くんが、「杖は習い事とは言えないから、入れなくて良いです」と主張する。そう言う綾哉くんも「杖」を練習していると言うし、敬汰くんも「太鼓」を練習しているのだと言う。「杖」は、地元の菅原神社の祭りで踊られる杖を使った民俗芸能で、「太鼓」は、南山田地区にある小倉神社の祭りで叩く民俗芸能なのだと教えられた。

淮園小学校5年生の話を聞いていると、家庭と学校と地域が、一体となって子どもたちを見守っている様子が手に取るように伝わってくる。もう少し、子どもたちだけの独自な時間があっても良いかなと思えるほどだ。「先生も親も知らない、みんなの秘密ってないの」と聞いた途端、床を叩いて「ワーッ」と歓声を上げ、全員が一斉に教室から飛び出して行った。「それは言えないんです」「2年生の時、宿題をしよる時にあったんです」「秘密を知っているのは、この5人だけです」。口々に話はしてくれるが、内容までは教えてくれない。

担任の佐郷加奈先生は、「ね、ね、それ何があったの」と、興味半分、不安半分の顔だ。私は、子どもたちだけの秘密を持っていることが、少し嬉しかった。彼らが、そう遠くない時期に、故郷を離れることがあったとしても、淮園小学校の仲間5人で共有した6年間は、「宝の時間」として、いつまでも彼らを支えてくれることだろう。

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